COLUMN コラム

配偶者が行方不明 ― 離婚調停・人事訴訟における送達実務

離婚や婚姻費用分担、養育費、面会交流、相続関係といった家事事件は、件数として日常的に発生しているにもかかわらず、相手方配偶者や相手方当事者の所在が不明である場合の手続きには、民事訴訟とは異なる固有のルールが組み合わさっています。家事調停は話し合いを本質とするため、相手方が完全に行方不明の事案では調停そのものが進められず、審判または人事訴訟へ移行することになります。本コラムでは、家事事件において相手方の所在が不明である場合の送達実務を、家事事件手続法36条による民訴法の準用、調停・審判・人事訴訟の連携、職権探知主義のもとでの公示送達の特殊性という観点から、弁護士・司法書士の先生方向けに整理いたします。

家事事件における送達の基本構造

家事事件手続法36条による民訴法の準用

家事事件における送達のルールは、家事事件手続法36条が「送達及び家事事件の手続の中止については、民事訴訟法第1編第5章第4節及び第130条から第132条まで(同条第1項を除く。)の規定を準用する」と定めることにより、民事訴訟法の送達規定が広く準用される構造になっています。これにより、交付送達(民訴法101条)、補充送達・差置送達(106条)、付郵便送達(107条)、外国における送達(108条)、公示送達(110条以下)の規定が、家事事件にも適用されます。送達実務の枠組み自体は民事訴訟と共通しているものの、家事事件の性質に由来する運用上の差異があるため、その特有のポイントを押さえておくことが、円滑な手続進行のうえで重要となります。

家事調停と公示送達の関係

家事調停は、当事者の任意の話し合いに基づく合意形成を本質とする手続きであるため、相手方が完全に行方不明で調停期日への出席が見込めない事案では、調停手続きそのものが成立しない構造になっています。そのため、相手方の所在が判明していないケースで公示送達によって調停を進めるという運用は、原則として想定されていません。相手方の所在が不明な事案では、調停を成立させずに不成立として終了させ、審判または人事訴訟へ移行したうえで、当該訴訟手続きの中で公示送達を利用するのが一般的な流れとなります。

調停前置主義との関係

離婚訴訟をはじめとする人事訴訟事件では、訴え提起前に調停を経ることを原則とする調停前置主義が定められています。もっとも、相手方が行方不明で調停を実施できない場合には、例外的に調停を経由せずに訴訟を提起することが認められる場合があります。実務上は、まず家事調停を申し立て、相手方の所在不明を理由に不成立または取下げで終了させたうえで、人事訴訟を提起するという流れがとられることが多いですが、事案によっては最初から訴訟を提起する選択肢もあります。いずれの流れを採るかは、事案の性質、調停を経由する意義の有無、迅速性の要請を総合的に考慮して決定することになります。

離婚事件で問題となる送達の論点

住民票上の住所と現実の居所の乖離

離婚事件において相手方配偶者の所在が不明である場合、まず確認すべきは住民票上の住所と現実の居所の乖離の有無です。住民票上の住所が依然として旧自宅のままで、現実には別居先で生活しているケース、住民票が職権消除されており住所自体が公的に存在しないケース、海外滞在中で住民票が日本国内に残っているケースなど、事案類型は多岐にわたります。配偶者の本籍地から戸籍附票を取得することで、住所変遷の履歴を追跡し、住民票上の住所と異なる現実の居所が記録されていないかを確認することが、調査の出発点となります。

親族・勤務先・関係者への聴取

家事事件では、相手方の親族、勤務先、共通の友人など、人的なネットワークから所在の手がかりを得られる場合が少なくありません。離婚事件においては、別居後に相手方が実家に身を寄せているケース、職場が変わっていないケース、共通の知人を介してSNS等で連絡が取れるケースもあり、これらの情報は所在調査の有力な手がかりとなります。当事者本人と関係者との間の関係性に配慮しつつ、必要な範囲で慎重に情報収集を進めることが望まれます。

現地調査による居住実態の確認

戸籍附票や関係者聴取で得られた住所候補について、現地調査による居住実態の確認が必要となります。表札・郵便受け・メーターの状況確認、近隣聴取、管理会社への問い合わせなどを通じて、当該住所に相手方配偶者が現に居住しているか否かを判定します。離婚事件では、相手方が複数の住所候補(別居先と実家、勤務先寮、新たな同居先など)を持っている可能性があるため、複数住所地の並行調査が必要となることもあります。

人事訴訟における公示送達の特殊性

擬制自白の不成立と立証の必要性

通常の民事訴訟では、被告が口頭弁論期日に欠席し続けると、被告が原告側の主張を自白したものとみなされる擬制自白(民訴法159条1項)が成立します。しかし、公示送達による呼出しがなされた事案では、例外的に擬制自白が成立しないとされています(同条3項)。さらに、人事訴訟は職権探知主義が採用されているため、当事者が主張しない事実についても、裁判所が職権で証拠調べを行い、心証を形成する構造になっています。その結果、公示送達によって相手方が出頭しない離婚訴訟であっても、原告は離婚原因の主張・立証を一通り行うことが求められ、原告本人尋問が実施される場合も少なくありません。

離婚原因の主張・立証の準備

相手方の所在が不明な離婚事件では、民法770条1項の各号のうち、2号(悪意の遺棄)、3号(3年以上の生死不明)、5号(その他婚姻を継続し難い重大な事由)が主張される場面が多いとされています。長期間の所在不明そのものが、5号の事由として評価される場合もあります。3号の「3年以上の生死不明」は、生死自体が客観的に不明であることが要件であり、単なる所在不明では足りない点に注意が必要です。公示送達による事件では第1回口頭弁論期日において証拠調べができるよう、事前に陳述書等の証拠を整えておくことが、円滑な進行のための準備となります。

失踪宣告との関係

配偶者が行方不明になってから7年以上経過している場合には、失踪宣告(民法30条以下)の請求も選択肢に上がります。失踪宣告がされると、不在者は失踪期間満了時に死亡したものとみなされ、婚姻関係も終了します。もっとも、失踪宣告は配偶者が現れた場合に取り消されると、過去の婚姻関係の処理が複雑化する可能性があるため、財産関係の整理や再婚の予定などとあわせて、離婚訴訟による解決との優劣を慎重に検討する必要があります。

調査嘱託など補完的な手続きの活用

婚姻費用・養育費算定のための調査嘱託

離婚事件・婚姻費用分担事件・養育費請求事件では、相手方の収入資料が必要となりますが、相手方が行方不明で調停・審判に出頭しない場合、収入に関する資料が提出されません。このようなケースでは、裁判所に対する調査嘱託の申立てを通じて、市区町村役場に課税証明書の調査嘱託を行ってもらい、相手方の収入を把握する運用が一般的です。調査嘱託の結果として収入資料が裁判所に提出されることで、婚姻費用や養育費の算定が可能となり、審判による解決へとつなげられます。

強制執行を見据えた財産情報の確保

公示送達による離婚訴訟で財産分与や慰謝料の請求が認容された場合でも、相手方が任意に履行しない可能性が高いため、強制執行の準備が並行して必要となります。相手方の財産情報を把握するための財産開示手続き、第三者からの情報取得手続きなど、判決後の回収を見据えた制度設計を、訴訟提起の段階から構想しておくことが望まれます。所在自体が不明である場合、強制執行の対象となる財産も把握しにくくなるため、訴訟と並行した情報収集が実務的な要点となります。

調停・審判・訴訟の使い分け

家事事件は、調停・審判・人事訴訟という複数の手続きが組み合わさっています。離婚については原則として調停を経由してから人事訴訟へ移行する一方、婚姻費用や養育費、面会交流などは調停不成立後に審判で解決されます。相手方が所在不明の場合は、調停を不成立にしたうえで、離婚については人事訴訟、それ以外の付随的な紛争については審判で公示送達を活用する、というように手続きを並走させることが多くなります。受任段階で、どの手続きにどの請求を載せるかの設計を行うことが、その後の進行を左右します。

所在調査における留意点

家事事件特有の配慮

家事事件における所在調査では、当事者間に過去の婚姻関係や血縁関係があることが多いため、調査の進め方には配慮が必要です。子の監護をめぐる紛争では、子の福祉に対する配慮が求められますし、配偶者からの暴力(DV)が背景にある事案では、被害者である依頼者の安全確保が最優先となります。また、相手方が病気や精神的不調を抱えて行方をくらませている可能性が示唆される場合もあり、調査の過程で慎重な対応が求められる場面が少なくありません。

裁判所が求める疎明水準

離婚訴訟など人事訴訟事件における公示送達の申立てでは、家庭裁判所の運用上、所在調査の疎明資料が比較的厳格に審査される傾向があるとされています。住民票・戸籍附票の確認、現地調査、親族・関係者への問い合わせなどを多角的に組み合わせ、いずれのルートでも所在が判明しなかった事実を、調査報告書として整理することが望まれます。大阪家庭裁判所など、公示送達の申立てに関する留意点を裁判所ウェブサイトで公開している家裁もあり、訴訟提起前にこうした情報を確認しておくと、申立て段階でのつまずきを減らせます。

調査会社との協働の場面

家事事件における所在調査は、住居所の特定と居住実態の確認の双方を含むため、現地確認の作業を外部の調査会社に委託することが選択肢となります。とりわけ、相手方の住所候補が遠隔地にある場合、複数住所地の並行調査が必要な場合、複数時間帯・複数日の確認が必要な場合などは、調査会社との協働により、依頼者の負担軽減と所在調査の客観性の確保が両立しやすくなります。家事事件特有の機微にも配慮しながら、調査会社と訴訟代理人が情報共有を緊密に行うことが、円滑な手続進行につながります。

まとめ

家事事件における送達手続きは、家事事件手続法36条による民訴法の準用を基礎としつつ、調停の本質や職権探知主義といった家事事件特有の構造によって、運用上の差異が生じています。相手方が行方不明である離婚事件では、調停を不成立にして人事訴訟へ移行し、公示送達のもとで離婚原因の立証を行うという流れが基本となります。所在調査においては、戸籍附票・関係者聴取・現地調査を多角的に組み合わせ、家庭裁判所が求める疎明水準を満たす資料を丁寧に積み上げる姿勢が、結果として手続きの円滑な進行と当事者の正当な権利実現につながります。


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