COLUMN コラム
令和8年5月施行 改正民訴法で変わる公示送達 ― インターネット掲載制度と実務対応
訴訟や調停において、相手方の所在が判明せず通常の送達ができない場合、最終手段として用いられるのが公示送達です。この公示送達の方法が、令和4年改正民事訴訟法(令和4年法律第48号)により大きく見直され、令和8年5月21日から、裁判所の掲示場への掲示に加えて、インターネット上で閲覧できる措置が新たに併用されることになります。施行日まで残り1か月を切った現在、弁護士・司法書士の先生方にとって、改正内容の正確な理解と、申立て段階で押さえておくべき実務上の留意点の把握は急務といえます。本稿では、改正民訴法111条の条文構造、改正前後の比較、そして申立人側が準備すべき事項を整理して解説します。
改正民訴法で公示送達の方法はこう変わる
改正の背景と全体像
令和4年5月18日に成立し、同月25日に公布された民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)は、民事訴訟手続の全面的なデジタル化を目指すものです。オンラインでの申立て、電子データによる訴訟記録の保管、ウェブ会議を利用した口頭弁論期日への参加など、手続全体にわたる大規模な見直しが段階的に施行されています。改正法の全面施行日は令和8年5月21日とされ、公示送達の方法に関する改正もこの日から適用されます。
「掲示場への掲示」から「掲示場+インターネット」へ
改正前の公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、その旨を裁判所の掲示場に掲示することをもって行うものとされていました。この方法は、実際に送達を受けるべき者が掲示場まで足を運ぶ可能性は極めて低く、形式的な手続にとどまっているという指摘が長くなされてきました。改正法では、これに加えてインターネット上で公示内容の情報提供を受けることができる措置を併用することとされ、送達を受けるべき者が送達の内容を現実に了知できる可能性が制度的に高められています。
改正の狙いは「送達を受けるべき者の手続保障」
公示送達は、相手方に訴訟の開始を知らせずに手続を進行させてしまう強い効果を持つ制度であり、送達を受けるべき者にとっては非常に不利益の大きい手続です。法務省の改正資料によれば、今回の改正は、送達を受けるべき者が送達の内容を了知できる可能性を高めるためのものと位置づけられており、申立人側の利便性向上だけを目的とするものではない点に留意が必要です。
改正民訴法111条の条文構造と閲覧措置の意味
書類の公示送達と電磁的記録の公示送達の二本立て
改正民訴法111条は、公示送達を「書類の公示送達」と「電磁的記録の公示送達」の2つの類型に整理しています。前者は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべきことを公示するもの、後者は、オンラインで送達された電磁的記録について、いつでも送達を受けるべき者に書面を交付し、またはシステム送達の措置を取ることを公示するものです。IT化の進展に伴い、送達の対象が紙の書類から電磁的記録へと広がったことに対応した条文整備といえます。
閲覧措置の具体的な方法
改正民訴法111条は、公示送達の方法を、最高裁判所規則で定める方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置と、書面の裁判所掲示場への掲示、または裁判所に設置した電子計算機の映像面への表示の閲覧措置と、を併せて行うものと定めています。具体的な運用は最高裁判所規則で定められ、裁判所のウェブサイトを利用した閲覧措置が予定されています。実務的には、裁判所のシステム上に一定の範囲で公示送達の情報が掲載されることになります。
公示事項の範囲とプライバシー配慮
インターネットを利用した閲覧措置では、不特定多数の者が掲載情報にアクセスできることになるため、送達を受けるべき者のプライバシーや名誉への配慮が重要な論点となります。法務省の部会資料では、送達を受けるべき者の氏名については、手続保障の趣旨から省略は困難としつつ、事件名等の事項については表示を省略することも検討課題として示されています。実際の運用では、必要最小限の情報のみが掲載される方向で設計が進められており、インターネット掲載を理由とした申立てのハードルが格段に上がるわけではありません。
施行後も変わらない「公示送達の要件」と住居所調査の重要性
要件そのものは改正されていない
今回の改正で変わるのは公示送達の「方法」であり、公示送達が認められるための「要件」自体は変更されていません。改正後の民訴法110条においても、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合、または外国においてすべき送達について一定の事情がある場合などに、申立てにより公示送達が認められる枠組みが、従来と同様に維持されています。
申立人に求められる疎明の水準も維持
公示送達を申し立てる際、申立人には相手方の住所等が知れないことについての疎明が求められます。この疎明の水準について改正による緩和はなく、実務上、住民票、戸籍の附票、不在住証明書、不動産登記情報、現地調査報告書などを組み合わせて、相手方の所在が調査を尽くしても判明しないことを裁判所に示す必要があります。むしろインターネット公示により送達を受けるべき者の了知可能性が制度上高まる分、「それでもなお所在が知れないこと」を裏付ける調査の充実が引き続き重要です。
住居所調査報告書の位置づけは変わらない
裁判所が公示送達または付郵便送達の可否を判断する際の重要資料である住居所調査報告書は、改正後も引き続き中心的な疎明資料としての位置づけを維持すると考えられます。書式や記載内容は、各地方裁判所の運用に従うことが原則です。改正施行後も、現地における居住実態の確認、近隣からの聞き込み、郵便受けの状態、電気メーターの稼働状況など、従来から重視されてきた調査項目の重要性は変わりません。
改正前後の公示送達を整理する
公示の方法 ― 掲示場からインターネット併用へ
改正前の公示送達は、民訴法111条に基づき、裁判所の掲示場に書面を掲示する方法によって行われていました。改正後は、改正民訴法111条により、最高裁判所規則で定める方法での閲覧措置(裁判所のウェブサイトを利用したインターネット閲覧措置が予定されています)と、裁判所の掲示場への掲示または裁判所に設置された電子計算機の映像面への表示の閲覧措置が、併せて行われることになります。改正の主眼は公示の見せ方にあり、インターネット経由で閲覧できるようになることで、送達を受けるべき者が送達の内容を了知できる可能性が制度上高まる点に意義があります。
対象となる送達の範囲 ― 書類だけでなく電磁的記録も
改正前の公示送達は、紙の書類の送達を前提として設計されていました。改正民訴法111条は、これに加えて電磁的記録の公示送達を正面から位置づけ、書類の公示送達と電磁的記録の公示送達の二本立ての構造に整理しています。これは、オンライン申立ての導入や訴訟記録の電子化に対応して、送達の対象が紙の書類に限られない時代への対応を図ったものです。
要件と効力発生時期 ― ここは変わらない
公示送達の要件を定める民訴法110条と、効力発生時期を定める民訴法112条については、改正後も基本的な枠組みが維持されます。相手方の住所等が知れない場合などに申立てにより認められる点は従来どおりであり、効力発生の原則である「掲示を始めた日から2週間の経過」も枠組みとして維持されます。改正後は「掲示」に加えて「閲覧措置」が併用されるため、効力発生の起算点に関する運用細目は最高裁判所規則で定められることになりますが、申立人が実務上意識すべき期間感覚は、従来と大きく変わるものではありません。
申立人の疎明 ― 調査の質の重要性は継続
申立人に求められる疎明の水準は、改正によって緩和されていません。相手方の所在不明を裏付ける住居所調査報告書などの客観的資料の重要性は、改正後も変わらず、むしろインターネット公示により了知可能性が制度上高まる分、「それでもなお所在が知れないこと」を示す調査の質が相対的に重みを増すとも考えられます。申立てに必要な調査や疎明資料の整備という実務の核心部分は、改正後も基本的に継続します。変わるのは公示の見せ方であり、申立人が日々向き合う調査業務の中身は、従来と同様に重視されるべきものです。
施行直前のいま 実務家が準備すべきこと
ポイント1:施行日をまたぐ案件の申立時期の見極め
令和8年5月21日をまたいで公示送達の申立てを検討している案件については、施行日の前後で適用される条文が異なる可能性があるため、スケジュール管理が重要になります。施行後は経過措置との関係で運用に細部の違いが生じうるため、早めの段階で裁判所窓口に確認しておくことが安全です。
ポイント2:調査の「質」で差がつく局面が増える
インターネット掲載で相手方の了知可能性が高まるとはいえ、そもそも相手方の所在が本当に不明であることを疎明できなければ公示送達は認められません。住民票の職権消除の履歴、戸籍附票の移動履歴、現地調査による居住実態の確認など、多角的な調査を重ねて疎明資料を整備しておくことが、審理の迅速化に直結します。
ポイント3:依頼者への説明ポイントを事前に整理
インターネットに公示情報が掲載されることについて、依頼者から不安の声が寄せられる場面が想定されます。公示される事項は必要最小限にとどめる方向で制度設計が進んでおり、事件の詳細までが広く公開されるわけではない点を、依頼者に分かりやすく説明できるよう準備しておくとよいでしょう。
まとめ
令和8年5月21日施行の改正民事訴訟法により、公示送達の方法は裁判所の掲示場への掲示に加えて、インターネットを用いた閲覧措置が併用されることになります。変わるのは公示の方法であり、公示送達の要件や、申立人に求められる疎明の水準、住居所調査報告書の重要性は、改正後も継続します。施行直前のいま、先生方にはスケジュール管理、調査資料の充実、依頼者への丁寧な説明という3点について、事前の備えを進めておかれることをおすすめします。
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